トリクレン(正式名称:トリクロロエチレン)は、今では発がん性物質として知られ、使用にはさまざまな規制がかかっています。しかし、私がこの会社に入った頃は、工場で比較的普通に使われている溶剤でした。
主な用途は、金属部品などの脱脂洗浄。機械加工の後に付着する油を落としたり、電子部品の最終仕上げに使われていました。
トリクレンが現場で重宝された理由
トリクレンは有機溶剤ですが、大きな特徴は「燃えない」という点でした。可燃性溶剤とは違い、火災の危険性が低い。この点は現場にとって大きなメリットでした。
さらに、油を落とす能力が高く、沸点が高いため蒸発しにくい。洗浄工程でも扱いやすい溶剤だったのです。
- 油がよく落ちる
- 燃えない
- 蒸発しにくい
現場の視点から見ると、非常に使いやすい溶剤でした。だからこそ、多くの工場で使われていたのだと思います。
規制強化へ——人体・環境への影響が明らかに
しかしその後、人体への影響や環境への影響が問題視されるようになり、状況は大きく変わりました。現在では、地下水汚染や健康リスクの問題から、トリクレンの使用は厳しく管理されています。
化学物質の評価は、時代とともに変わる
こうした変化を見ていると、化学物質の評価というものは、時代とともに変わるものだと感じます。ある時代には便利な材料でも、研究が進めば、新しいリスクが見えてくることがあります。
だからといって、過去に使われていたことを単純に「間違いだった」と言い切れるものでもありません。当時の現場では、その時点で最善と考えられる材料を使い、設備を動かしていたわけです。
大切なのは、新しい知見が出てきたときに、きちんと見直すことだと思います。化学の世界では、「便利」と「安全」のバランスを常に考え続けなければなりません。
トリクレンという溶剤を思い出すと、化学と産業の関係は、常に変化していくものだとあらためて感じます。


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